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クローテル/大統領の娘〈アメリカ古典大衆小説コレクション 10〉

(著者)ウィリアム・ウェルズ・ブラウン   (訳・解説)風呂本惇子  

解説

Clotel; or, The President's Daughter: A Narrative of Slave Life in the United States(1853)の全訳

元奴隷の「アメリカ黒人の手による初の長編小説」、待望の本邦初訳。第3代アメリカ合衆国大統領トマス・ジェファソンと混血奴隷との間に生まれた美しい二人の娘クローテルとアルシーサの壮絶な運命を描いた衝撃の「架空の物語」。今でこそ映画や小説でジェファソンの異種族間恋愛はおなじみだが、奴隷制廃止の十年も前に元大統領の実名を用い、独立宣言起草者が奴隷所有者であるという矛盾を突いたこの物語は実に果敢な挑戦である。

目次

第一章 黒人の競売
第二章 南部への旅
第三章 黒人の追跡
第四章 クァドルーンの家庭
第五章 奴隷市場
第六章 宗教の教師
第七章 南部の貧しい白人たち
第八章 別離
第九章 信義に厚い人
第十章 若きキリスト教徒
第十一章 詩人牧師
第十二章 牧師宅の台所での一夜
第十三章 奴隷狩りをする牧師
第十四章 自由の身でありながら奴隷にされた女
第十五章 今日は女主人の身でも、明日は奴隷の身
第十六章 牧師の死
第十七章 復讐
第十八章 解放者
第十九章 クローテルの死亡
第二十章 真の民主主義者
第二十一章 キリスト教徒の死
第二十二章 駅馬車の旅
第二十三章 事実は小説よりも奇なり
第二十四章 逮捕
第二十五章 死は自由なり
第二十六章 脱出
第二十七章 不思議なできごと
第二十八章 うれしい出会い
第二十九章 結び
解説

メディアほか関連情報

■ 「週刊読書人」2015年5月15日付に掲載されました

第十五章に「不正義が主要な特徴であるような社会、主人と奴隷という二つの階級に分かれた社会、そんな社会でどんな社会的美徳があり得ようか」というくだりがあるが、不正な法体系に縛られた社会では自由も美徳もないと本書は弾劾する。人を平等に扱うのが法律であるのに、奴隷制とはその人を不平等に扱うことを規定した法律で、十九世紀アメリカで法と秩序に従って生きるなら、奴隷に明日はない。となれば、既成の法と秩序ではなく、真の法と秩序は何かを自ら考えださなければならない。ブラウンは、なにものにも縛られない真の自由と美徳は何かを徹底して追究する。これは現代社会にも通じるテーマである。(木内徹・日本大学教授、アメリカ文学専攻)

 

■ 「黒人研究」84号、2015年に掲載されました

『クローテル』において、奴隷制をめぐる葛藤は、奴隷制に反対する白人女性ジョージアナや、その父で奴隷制擁護者のジョン・ベックのような典型的人物の間で交わされる議論として社会的に構成されている。議論は、「人間の作った制度」と「神の造りたもうた自然」を対置させるが、その境界は、ハックがそうであったように、奴隷制に対する考え方で変わってくる。議論を聞くカールトンが説得されることで、ジョージアナが勝利を収めたように見えるが、その間も屋敷の外では、奴隷たちの悲劇的な人生が続いている。(平尾吉直)

 

■ 「赤旗」2015年3月1日付に掲載されました

作品はクローテルたちのストーリーをたどるだけではない。当時の公文書、詩歌、新聞雑誌記事、牧師の説教、政治家の演説など、他者の言説を縦横無尽に取りこんで交錯させ、奴隷制擁護論の自家撞着をときには辛辣なアイロニーによって鋭くつく論陣を張ってもいる。そのために、現代文学の一部に見られるような混成的テクストになっており、ことのほかモダンな文学実験に通じているともいえよう。(村山淳彦・東洋大学教授)

著者紹介
  • ウィリアム・ウェルズ・ブラウン

    (1814-1884)奴隷制廃止論の講演者として有名。ケンタッキー州レキシントンに奴隷として生まれ、二十歳の時に逃亡に成功。1843年に出会った元逃亡奴隷のフレデリック・ダグラスとは、やがて奴隷制廃止運動の方針をめぐって袂を分かつまで、互いを尊敬し合う信頼関係にあった。自身の奴隷体験を克明に記した Narrative of William W. Brown(1847)は米英で広く読まれた。小説、戯曲、歴史、旅行記など15冊以上の著作を残している。

     

  • 風呂本惇子

    1939年生まれ。神戸女子大学助教授、神戸女学院大学教授、奈良女子大学教授、2002年定年退官、城西国際大学教授、2012年退職。専門はアメリカ文学。著書に『アメリカ黒人文学とフォークロア』(山口書店)、翻訳に『詩人シルヴィア・プラスの生涯』(晶文社)など。

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