松柏社

松柏社

図書出版の松柏社

ようこそゲストさん

【サントリー学芸賞受賞作】翻訳を産む文学、文学を産む翻訳/藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち

(著者)邵丹(ショウ・タン)  

解説

本書で邵丹さんが第44回(2022年度)サントリー学芸賞〈芸術・文学部門〉を受賞されました!

 近年、自らの創作と翻訳を「飴と塩せんべい」に譬える村上春樹の一見独特なアプローチが注目を集めている。その一方で、村上を育てた1970年代の文化的土壌、言い換えれば、ポストモダニズムが急速に浸透していった転換期日本の翻訳文化についてはほとんど解明が進んでいない。当時、発話困難に陥った村上が独自な自己表現を試みる際に参考にしていたアメリカ小説家の作品群の翻訳・受容は、学術界や文壇よりも、60年代のカウンター・カルチャーの旗手たちや産業化するSF翻訳業界によって担われていた。

 村上春樹という作家の文化的ルーツの一つには1970年代の翻訳文化がある。この時代の「新しさ」の視点から「新しい翻訳」「新しい形」で出版された実際の翻訳書や若者文化の勃興のもとで誕生した「新たな」文化空間を、藤本和子、SF小説の翻訳家たちの翻訳についての研究を通して丹念に辿っていく。

▶︎津野海太郎、藤本和子、巽孝之、柴田元幸、岸本佐知子、伊藤夏実、くぼたのぞみ(以上敬称略)といった翻訳家、SF評論家、編集者の方々に著者がインタビューした内容も収録しています。

目次

序 章 

世界文学としての村上春樹の作品

七〇年代末頃の文学趣味の変革──村上春樹の登場

七〇年代の発話困難──翻訳を通した自己発見

先行研究のまとめ──三つのアプローチとそれへの補足

同時代的想像力とは何か──二つの事例研究(ケーススタディ)の構想

第一章 七〇年代の翻訳を検討するための理論的枠組み

より大きなを読み解く

翻訳の政治性──言葉や文化の力関係

文化的慣性──無視できない地域性や伝統の力

「多元システム理論」と「記述的翻訳研究」

エヴェン=ゾハルと多元システム理論

トゥーリーと記述的翻訳研究

第二章 七〇年代の翻訳が置かれた歴史的な文脈

理想の時代──「太陽族」と呼ばれる戦後派青年像

夢の時代──若者の誕生に伴う「反乱」という形での激痛

虚構の時代──文化の再編成とサブカルチャーの細分化

七〇年代の大きなパラダイムシフト──近代読者から現代読者への転移

近代読者の歩み──先行する読者論

七〇年代における現代読者の肖像──「新大衆」という消費者層の台頭

七〇年代の現代読者像──文学全集と雑誌から見る読者層の二重構造

戦後四半世紀を振り返る──書物の商品=モノ化

第三章 ケーススタディⅠ:ひとりの訳者、複数の作者──藤本和子の翻訳

「エクソフォニー」の系譜に連なる女性翻訳家──「サブカルチャー」的な生き方

六〇年代の小劇場運動における藤本和子の参加(アンガージュマン)

▶︎演劇中毒──ふたりの演劇仲間

▶︎運動としての演劇──Concerned Theatre Japan の編集作業

▶︎地下という流れに惹かれて──対抗的姿勢

立ち上がるマイノリティ、女性たち──黒人女性の「声」の復元

▶︎差別問題のパラダイム転換のために──「報告」の力

▶︎聞書という言文一致体──もうひとつの地下の流れ

▶︎新たなる沈黙に「声」を──『死ぬことを考えた黒い女たちのために』の翻訳

強かな反逆、企てられた革新──日本におけるブローティガン文学の翻訳受容

▶︎七〇年代を代弁する小説家──作品群における「パロディ」の活用

▶︎ブローティガンのサンフランシスコ時代──戦後アメリカの対抗文化との関わり

▶︎小説群が受容された経緯

▶︎『アメリカの鱒釣り』における新しい形の正体

▶︎ブローティガンの文体的特徴

▶︎『アメリカの鱒釣り』における新しい翻訳の正体

第四章 ケーススタディⅡ:ひとりの作者、複数の訳者──日本語で構築されたカート・ヴォネガットの世界

新しい小説の書き手カート・ヴォネガット

▶︎力強い肉声の響きを持つ作品群──ヴォネガットの語り口調

▶︎アメリカ小説の崩壊──ニュージャーナリストたちの奪権

Welcome to the Monkey House ──日本におけるヴォネガット作品群の受容

▶︎六〇年代の黎明期──SFファンダム、共同体の形成

▶︎七〇年代の転換期──打ち寄せる「新しい波(ニューウェーブ)」、薄れゆく境界線

▶︎八〇年代以降の発展期──SFが豊かな文芸ジャンルへ

複数の翻訳家によるカート・ヴォネガット世界の構築

▶︎▶︎伊藤典夫と『屠殺場5号』(一九七三年)、『スローターハウス5』 (一九七八年)

▶︎▶︎池澤夏樹と『母なる夜』(一九七三年)

▶︎▶︎浅倉久志と『スラップスティック』(一九七九年)

▶︎▶︎飛田茂雄と『ヴォネガット、大いに語る』(一九八四年)

Translator as a Hero ──ヴォネガット受容の中心的な役割を担うSFの翻訳

▶︎▶︎翻訳一辺倒時代の『SFマガジン』──SF専業翻訳者の第一世代

▶︎▶︎「SFの鬼」福島正実の文学路線──SFの定義をめぐる論争

▶︎▶︎七〇年代における知的労働の集団化──SF界の翻訳勉強会の発足

終章 「若さ」に基づく文化的第三領域の生成──二つのケーススタディが示すもの

ポリティカル・コレクトネスへ向かうカウンターカルチャー

文学的な地位向上を経験するSF

七〇年代の翻訳文化──ブローティガン、ヴォネガットとの共振

展望──文化的秩序の「脱構築(デコンストラクション)」のあとに

 

あとがき

註 

参考文献 

索引

メディアほか関連情報

■HILLS LIFE DAILY(2022年6月25日)に著者インタビューが掲載されました

著者の邵丹さんが津野海太郎著『編集の提案』(黒鳥社)の編者でもある宮田文久さんにインタビューを受けました。

「村上春樹を育てた翻訳文化、あるいは藤本和子の若さについて──邵丹インタビュー」

https://hillslife.jp/culture/2022/06/25/translation-and-creation/

 

■2022年7月10日(日)午後12時〜 本屋B&B

邵丹✖︎柴田元幸 「1970年代の日本語を求めて」『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳:藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』(松柏社)刊行記念イベントが開催されました。

 

■『週刊読書人』2022年7月22日号に書評が掲載されました

「最新の世界文学論の知見と緻密な実際の翻訳研究を行ったうえで既存の文学史の再検討を迫る、それが本書の魅力であり学術的貢献である。」──青木耕平(日本学術振興会特別研究員PD・アメリカ文学)

 

■UTokyo BiblioPlazaに著者の邵丹さんによる同書紹介文が掲載されました

日本語:https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/A_00207.html

英語:https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/en/A_00207.html

 

■2022年8月13日(土)午後2時〜 青山ブックセンター本店

邵丹✖︎岸本佐知子✖︎ハーン小路恭子「新しい翻訳 女性たちの系譜をたどる」『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳』(松柏社)刊行記念イベントが開催されました。

 

■邵 丹さんが『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳』で第44回(2022年度)サントリー学芸賞を受賞されました。選評はこちらからお読み頂けますhttps://www.suntory.co.jp/news/article/14268-1.html

 

■『総合文化研究』第26号(東京外国語大学総合文化研究所)に書評が掲載されました

「1970年代の日本の文化的・社会的状況、文学と翻訳の状況について、その年代をリアルタイムで生きた日本人が感じていたことを、そのときにはまだ生まれてもいなかったであろう中国人の著者がどうしてここまでありありと描き出すことができるのかと、第二章を読んでいても驚嘆の気持ちを禁じ得なかった」──山口裕之(東京外国語大学教授・ドイツ文学)

 

著者紹介
  • 邵丹(ショウ・タン)

    1985年生まれ。東京外国語大学世界言語社会教育センター専任講師。上海外国語大学高級翻訳学院翻訳学専攻修士課程修了。東京大学人文社会系研究科欧米系文化研究専攻博士課程修了。東京大学博士学位(文学)。専門は翻訳研究、世界文学論、ジェンダー研究。著書に『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳──藤本和子、村上春樹、SF小説家と複数の訳者たち』(松柏社)、論文に、佐藤=ロスベアグ・ナナ編『翻訳と文学』(分担執筆、みすず書房、2021年)、「『反』骨のSF作家・劉慈欣と『三体』三部作による時代啓示」(『Artes MUNDI』VOL. 6, Spring 2021)など。

関連書籍
  • エイリアン・ベッドフェロウズ

  • アメリカ短編ベスト10

  • 【西脇順三郎学術賞受賞作】立ちどまらない少女たち/〈少女マンガ〉的想像力のゆくえ